返品については、近時頻繁に改正が入っている部分で、注目しているECサイト運営者の方も多いと思います。しかし、私が見る限り法の趣旨に沿ったまともな対応、つまり各省庁が出しているガイドラインの内容に従うということですが、それが出来ているECサイトは全体からすれば本当に少ないのが現状です。最低限法に従うような対応をとっていればまだ良いというくらいでしょうか。
しかし、このように業界全体が進む限り、法改正はこれからも進みます。ガイドラインがやがて法律になり、それでも十分でなければ、訪問販売について認められているクーリングオフをEコマースにも適用するかもしれません。(実際にそんな法案も出ていました。修正されて成案になりましたが。)
少しだけでも、返品規定については危機感を持って定めてほしいように思います。薬事法の改正で第一種医薬品についてEコマースが締め出されたという実例もあるのですから。
返品について基本的なこと
返品特約は何でも許されるわけではない
まず、お客様側に全く落ち度がないにもかかわらず返品を認めないということは法的に見てかなりの無理があります(隠れた瑕疵があるときに、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項は、消費者契約法第8条第1項第5号により無効とされるからです)。お客様側に全く落ち度がない場合とは以下のような場合です。
- 注文した商品と違う物が届いた
- 注文した商品数量とは異なる数量が届いた
- 届いた商品に通常の性能・品質が無かった(不良ロットなど)
- 届いた商品に隠れた瑕疵(不良部分)があった(瑕疵担保責任)
- 届いた商品がサイト上で掲載されていた情報と異なる部分があった
- 事前の説明と異なる納期でそれがために契約の目的が達成できなかった
ですので、一律に「当店でご注文いただいたものについては返品を一切お受け付けできません。」という規定は、全く無意味です。それどころか、今回の改正法では不明確な返品規定については無効としており、通常通り特定商取引法で定められた返品を認める義務をサイト運営者に課しています。
特定商取引法で定められている返品に応じる義務とは以下のようなものです。(特定商取引法第15条の2など)
- お客様が商品の引き渡しを受けた日から8日間は契約の解除(返品・返金)に応じる
- 返品にかかる送料についてはお客様負担となる。
- この場合、返品に関して条件を不当な条件を付してはならない。(付加して手数料などを請求できない)
これは、返品規定を定めていない場合に原則的に認められる義務と言うだけでなく、不明確な返品規定を定めていた場合、返品規定を定めていてもその注意喚起が不十分もしくは通常気がつかないような記載がされていたような場合などにも、原則的に守らなければならない義務であり、消費者の権利となります。
もちろん、商品によって、事例によって、サイト構成によって、その他の多種多様な要素から、「原則」は「例外」に変わります。しかし、社会は「消費者保護」を強く求めているのです。
容易に認識することが出来るよう表示する義務がある
返品特約については、特定商取引に関する法律施行規則第9条及び第16条の2において、「顧客にとつて見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとつて容易に認識することができるよう表示すること」と定めています。
では、それはどのような表示なのでしょうか。事例や店舗、商品、媒体により異なりますが、概説だけ述べます。
- 小さい文字でないこと(12pt以上の大きさ、色文字を利用するなど)
- 返品特約とそうでない部分の区別がはっきりしていること
- 返品について消費者が知りたいと思うこと(「返品の可否」・「返品の条件」・「返品に係る送料負担」)については特に明瞭に記載すること
※明瞭にとは目につくようにということであり、例えば商品価格のスタイルと全く同じ太字・色文字を使うなどの場合や、かならず消費者が確認する部分のすぐ近くに掲載するなどである。 - ご利用ガイドなど、取引全体に関する解説ページを用意し、返品について説明したページも用意すること。
- 各商品ページに明瞭に記載すること
- 1つのサイト内で広告している様々な商品について、それぞれ異なる返品特約が適用される場合に、それぞれの商品について、いかなる返品特約が適用されるかを消費者に分かりやすく表示すること
- 最終申し込み画面(注文確定・確認画面)において返品に関する表示を行う、もしくは行った上でさらに詳細として返品に関する説明ページへのリンクを貼る
- 通常注文手続きをもっともシンプルな画面遷移で行った場合に、一度も返品特約の説明や解説ページへのリンクが表示されないことがないようにする
- 膨大なスクロールを経なければ返品規定にたどり着けないなどのないこと
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これらはあくまで例なので、全部この通りにしなければならないというわけではありません。しかし、感覚的にどの程度のことをしなければならないかについてはなんとなくでもおわかりいただけるのではないでしょうか。
なお、紙媒体に広告を打つ場合や、動画などで広告を打つ場合など、その場合にはまた違ったわかりやすい表示が必要になります。単純にその広告自体の表示だけでなく、例えばURLを貼ってランディングページを作るならば、法的に見たLPOが必要になる場合もあるかもしれません。
コストとリスクを最小限にするには
とにかく店側のリスクを最小限に抑える方法を以下に記します。ただし、これによって問題が発生しないことを保証するものではありません。
まずは、返品に関する記載があるページを用意します。そして、そのページへのリンクをページの通常分かるところに掲載します。フッタ部分にカテゴリ検索と一緒に載せるなど分かりづらい部分はダメです。さらに、注文確定画面にも返品に関する記載を載せます。
では、返品に関する規定をどう定めましょうか。まず、お客様都合とそうでない場合を分けて記載します。そうでない場合とはつまり商品に隠れた不良や故障があった場合です。
- お客様都合でない場合
⇒送料当方負担で返品を受け付けます。※お客様都合で無い場合とは、商品に欠陥がある場合やご注文商品と異なる物が届いた場合などです。
- お客様都合の場合
⇒一切お受け付けできません。
これで最低限を満たしています。しかし、このままでは不明確です(プログラムで言うスケルトンでしょうか)。期限や、申し出・連絡方法などについて加筆するのが良いと思います。
もちろん、返品に関する連絡先を併記することを忘れないようにしてください。
記載としてダメな例
経済産業省のHPにも記載がありますが、以下のようなものになります。
記載例 | ダメな理由 |
---|---|
「商品到着後10日間の初期不良については、返品・返金にて対応します。」 | 瑕疵がない場合の返品の可否についても明確に記載することが必要。 |
「ノークレーム・ノーリターンでお願いします」「返品不可」 | 瑕疵がない場合の返品の可否についても明確に記載することが必要。 |
「商品に欠陥がない場合の返品についてはその都度ご相談に応じます。」 | 具体的にどのような場合であれば返品に応じるのか不明確。いくつか例を表示することが必要。ただしその場合でも例によってはダメ |
カスタマイズ例
返品をどのようにするかは、商品によって大きく異なりますし、利益率、サイトシステムなどによる制約もあるでしょう。
顧客サービスを重視するのであれば、例えば未開封の場合に限り、実費と返送費をご負担いただ上で、お客様都合の返品を認めるとうのが双方にとってバランスが良く一つの手になると思います。
また、中古品をさばけるのであれば、開封後でも返品(という名の買い取り)に応じるというのも一つの手かもしれません。Amazonがやっています。
いずれにせよ、条件を明示し、わかりやすい所から説明へリンクし、ご注文確定画面にも明示する。それが大切なことです。
その他の注意点
商品によって返品に関する取り扱いが異なる場合、その区分は明確にするようにしましょう。でないと、実質的に返品条件が不明確になってしまいます。できれば、商品ごとに返品に関する表示をすると良いでしょう。
参考になるサイト
上新電機が運営する「Joshin Web」(楽天市場店)が参考になります。
すべての商品名に、返品種別[A・B]を付け、商品説明の一番上に、説明ページへのリンクを貼っています。
商品名への挿入については、CSVファイルの扱いや正規表現+置換などある程度ITに関する知識を持っていれば簡単ですし、そうでなくともそういうことが簡単にできるようなシステムがあってもおかしくありません。お客様にとっての明確さ、法令上の義務に応えるという姿勢と、運用を楽にするという部分を上手く両立しているように思います。
また、このサイトは商品の特徴ごとに返品についての注意書きも行っており、リスク管理についても優れています。例えば、女性用脱毛機の商品ページには、「脱毛直後は、個人差がありますが、血がにじんだり、肌があかくなることがあります。この様な症状での商品の返品・交換はお受けできません。ご容赦くださいませ。」という記載があります。おそらくそのような問い合わせや苦情があったので書き入れたのでしょうが、お客様も認識した上で買うことができますし、買わないで違う商品にするという選択もできます。非常にフェアだと思います。
⇒【楽天市場】Joshin web 家電・PC・ホビーの大型専門店 [Joshin webのご案内]
関連資料
- 関係資料|消費生活安心ガイド((別添5)通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン)
[…] ついては、すべてを一律に不可とすることは出来ない旨については、本サイトの他ページにて述べました。 […]
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